● B.C.580頃〜500頃
● 神秘主義的なピタゴラス教団を創設した
● 数学の定理の発見や研究が多数
● 音楽における数理論にも貢献した
ピタゴラスとは何者か
ピタゴラスは謎の多い人です。
サモス島に生まれ、のちに、南イタリアに移り住み、哲学・宗教・政治などをあわせて探究する神秘主義的な結社を創設しました。その結社は「ピタゴラス教団」と呼ばれています
ピタゴラスは、エジプトで幾何学と霊的な密儀を学び、フェニキアで算術を学び、カルディア人からは天文学を学んだといいます。
ピタゴラス教団は輪廻の思想を展開し、なかば禁欲的ともいえる生活を弟子たちと送りました。輪廻という思想は、より善き生を求めて鍛錬し、自らを浄化していく実践の動機を与えてくれるものだったのではないでしょうか。
とはいえ、教団の祖であるピタゴラスの言葉や資料は残っていません。私たちは、後世、プラトンやアリストテレスによって記述されたテキストを通して、ピタゴラスやピタゴラス学派の思考に触れることしかできません。
しかし、どうやら禁欲や身体の鍛錬ということが教団で重視されていたことは確かなようです。また、同様に確かなことは、ピタゴラス教団においては、数と音楽が神聖なものとして捉えられ積極的に探求されたということです。
ピタゴラスにおける数
数学や音楽におけるピタゴラス教団の貢献は多大なものがあります。まず数から見ていきましょう。
例えば、ピタゴラスの方程式「X²+Y²=Z²」を満たす三つの自然数の組をピタゴラス数と呼びます。ここから中学数学で習う有名な「ピタゴラスの定理」が導き出されてきます。
このピタゴラスの方程式が、かの有名な「フェルマーの最終定理」にもつながっていきます。フェルマーの最終定理が提出されたのは17世紀のこと、さらに、それが証明されたのは20世紀末のことです。このような数学的証明の発端もピタゴラスに帰せられるというのは驚くべきことだと思います。
他にも三角数や四角数についての研究もあります。特に「10」という数を「完全数」と呼んで非常に神聖なものと見ていたようです。例えば、ピタゴラス学派のシンボルとされた「五芒星」は10個の頂点をもちます。さらに、1,2,3という数それぞれに意味を見出し、これは後世の数秘術などの思想の土台となっています。
ピタゴラスにおける音楽
ピタゴラスは数をもちいて音楽を探求しました。
ピタゴラス教団では、天体の運行は私たちの耳には聞こえない音を発しており、それらが宇宙のハーモニーを奏でていると考えていました。
ピタゴラスは音楽というものを数によって分析し、研究を進めました。ピタゴラス音律という音階を創造しました。2と3という素数をもちいた12音からなる音律です。これは現代にまで続く、音律・音階の源となっています。
私たちが当たり前のように使っているドレミファソラシド、そこには全音・半音という考え方がありますが、隣り合う音の周波数は、等差数列ではなく、等比数列になっています。ピタゴラスは、この数比を発見したといいます。このように音楽を数理によって捉え、示し、私たちの心が心地良く感じる音をつくりだしていきました。
ピタゴラスは音に関する理論の祖であるといえるのではないでしょうか。
数はいっさいの存在者のアレテーである
アレテーとは「原理」を意味するギリシア語です。アレテーには「はじまり」という意味があり、この世界に存在するあらゆるものの源を指し示す言葉でもあります。
ピタゴラスはこの原理を「数」であると捉えました。
ピタゴラスの徒は、数学の研究にたずさわった最初の人々であったが、彼らはその研究を進めるとともに、数学のなかで育まれた人々であったので、この数学の原理をいっさいの存在者の原理であると考えた。
しかも、数学のさまざまな原理のうちでは、その本性において第一のものは数であり、そうした数のうちには、火や土や水などよりもいっそう多く、存在するものや、生成するものと、類似した点があるのがみとめられると考えたのである。
[中略]その結果彼らは、数の構成要素をすべての存在者の構成要素であると考え、また天界の全体も音階であり、数であると考えることになった。
ーーアリストテレス
先に見たように、宇宙が音に満ちていて、音階は周波数の比によって示されるということは、一切は数が浸透し、この世界は数に満ち溢れ、あらゆる存在者が数によって解き明かされるであろうと考えることにつながると思います。
そして、実際にピタゴラス教団の人々はそのように世界を捉えていたのではないでしょうか。